K

美味しいもの、美容、ファッションときどき古典。

「語の成り立ち」や「語源」は、単語の意味を暗記するためのものか

「語の成り立ち」・「語源」の効用

 

 古文単語帳や、古文の授業において、古文単語を覚えるには「語の成り立ち」や「語源」を活用した方がよく、頭にも残りやすいと言われることがあるようです。このことについて、あくまで思い付きのレベルで色々と考えてみたいと思います。

 たとえば、「あやし」という単語を例にとって考えてみたいと思います。まずは、古語辞典の「あやし」の語義を一部抜粋してみます。

 あやし【奇し・怪し】 

     ①不思議だ 

     ②普通とは違っている 

     ③異常だ 

     ④異常なほど優れている

     ⑤礼儀から外れている 

     ⑥不審だ、疑わしい

    【賤し】

     ①身分が低い、賤しい 

     ②見苦しい、みすぼらしい

                 

 (『ベネッセ古語辞典』より)

  確かに、これだけの意味を丸暗記しようとすれば、相当苦労をすることになるのは間違いなさそうです。この「あやし」について、たとえば『栗原の古文単語教室』(36頁)にて以下のように説明をしています。

……本来は、「不思議だ・奇妙だ・異常だ」という意味だった。そこに「身分が低い」「みすぼらしい」などという意味が加わった。

 平安時代の言語文化を担っていたのは貴族階層の人間だが、彼らの目には、我々一般庶民の姿は「あやし」―「不思議」で「奇妙なもの」と映ったんだ。

  貴族から見て「不思議、奇妙」であった庶民の生活などが「あやし」と認識され、そこから「あやし」には「身分が低い、みすぼしい」などの意味が同居するのだということで、類書でもよくなされる説明です。

 たしかに、このように語源や語の成り立ちから説明をしてもらえれば、意味がたくさんあって取っつきにくかった「あやし」が、少しばかりやさしく把握できそうな気がしてきます。

 

実際には意味が先ではないか

 しかし、このような説明での順序は、通常「あやし」の意味をいくつか示し、その後で、上記のような成り立ちの説明がなされることが多いのではないでしょうか。もし逆に、いきなり「あやし」の成り立ちから入ったとしても、しっくりき難いように思うのです。最初に「あやし」にはこれだけたくさんの訳語を与えられる可能性があって、なぜこうなったかと言うと......という順番での説明が考えられます。すでに「あやし」に多くの意味がある、把握が難しいという意識を持っている人にのみ、成り立ちや語源の説明が効用を発揮するように思うのです。

 つまり、ある程度その単語について(どれだけ定着しているかは関係なく)知っている、見たことがあるという状態を前提としていなければ、語源や成り立ちを示されても、いまいちぴんと来ないのではないかと思うのです。

 そこで、「語の成り立ちや語源は、単語を覚えるためのものではなく、理解の助けになったり、忘れにくくしてくれる効用はある」と言いたいと、私は思います。ですから、まずは複数の用例と向き合って、それぞれでの用語の訳語の可能性を知る。そのうえで、語の成り立ちや語源を補助とすれば、その語の理解が深まるのではないでしょうか。

 

「語の成り立ち」・「語源」を知る楽しみ

 ところで、この語の成り立ちや語源自体そのものが非常に興味深いものだとは思いませんか。一語一語には歴史、ドラマがあります。消えてしまった言葉もあれば、時代時代で意味を変えながら、生き残っている言葉もあります。その物語は非常に面白い。だから、その語源がこじつけであったり、学術的には疑わしいものであっても、語源に惹かれる人は少なくありません。

 ある時代でAという意味だった語が、別の時代ではBという意味に変化していった場合には、その時代がその語に反映されいたりして、そこにもドラマがあり、これもまた非常に興味深い。何かを覚えるためだけに、こういうことをある種消費するようにして通り過ぎていくのはもったいない!という風に私は思います。

 もちろん私の感じる楽しさ、面白さを人に押し付けてはいけないのですけれども。