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『小夜衣』2020年センター試験古文 全訳・解答・ワンポイント解説

 2020年のセンター試験、受験生のみなさま、まずは初日お疲れさまでございました。以下、私が、仕事をしている機関とは関係なく、個人的に執筆したものです。どなたかのお役に立てれば幸いです。なお急いで作成したため、今後少しずつ内容が加わったり、修正されたりしていく可能性もございます。ご了承ください。

 

問題をお持ちでない方は、東進さんなど大手予備校のサイトから入試、参照してください。以下は東進さんのサイトのリンクになります。

センター試験2020 国語問題|解答速報2020|予備校の東進

 

 

出典について

『小夜衣』(さよごろも)

鎌倉時代中期以降の成立と思われる擬古物語。作者不詳。兵部卿宮と山里の姫君の恋を描いた物語である。『源氏物語』や『狭衣物語』の影響が色濃くみられる。特に今回の出題箇所については、「垣間見」の場面であり、『源氏物語』若紫巻の影響が強い。センター試験の出題者は、『源氏物語』の影響下にあるような作品を好んで出題すると私は感じている。本当は『源氏物語』という古文の王道から出題したいが、それが難しいことの裏返しなのではないだろうか。そのためこのような擬古物語センター試験では頻出なのである。人物関係・状況を場面ごとに把握しながら、述語に着目し主体と対象を把握することが大切であった。

 

所感

 本文は読みやすい方であったし、長さも昨年より短くなった。選択肢も素直で、紛らわしいものはほとんど見られなかった。また、擬古物語からの出題ではあるものの、このタイプの文章が出たときには頻出でありほぼ定番とも言える和歌に関する問題は出されなかった。実際には、今回の出題箇所の続きには和歌が出てくるのだが、その前で今回は終わっているのである。以上の事から、やや易しくなったように感じた。 しかし、ここの場面の垣間見は姫君自体を覗き見た場面ではないため、注意が必要。問6で引っかかる人も出てきただろう。思い込みで読まないようにしたい。

 

リード文

次の文章は『小夜衣』の一節である。寂しい山里に祖母の尼上と暮らす姫君の噂を耳にした宮は、そこに通う宰相という女房に、姫君との仲を取りもってほしいと訴えていた。本文は、偶然その山里を通りかかった宮が、ある庵に目をとめた場面から始まる。

 

出題箇所(書き出しのみ抜粋)

「ここはいづくぞ」と、御供の人々に問ひ給へば、「雲林院と申す所に侍る」と申すに、……(本記事の最後に全文を掲載します)

 

現代語訳

【第1段落】

 (宮が)「ここはどこか」とお供の人々にお尋ねになると、(お供の人が)「雲林院と申すところでございます」と申し上げるので、(宮の)お耳に残っていて、「宰相が通うところであろうか」と思いになり、「(宰相は)この頃はここにいると聞いたけれども、(宰相が通う姫君が住んでいらっしゃるのは)どこであろうか」と知りたいとお思いになられて、牛車をとめて外を見ていらっしゃると、どこでも卯の花の咲いている景色同じようなものだというけれども、卯の花が垣根のように咲き広がっている様子は卯の花の名所である玉川もこうであろうかという心地がして、ほととぎすの初音を聞くにもやきもきすることもない地であるだろうかと、自然と興味を惹かれるように思われなさって、夕暮れどきであるので、そっと垣根の隙間から、格子などが見える部屋をのぞきなさると、こちら側は仏前であると見えて、閼伽棚が質素にあり、妻戸や格子なども開け放ってあり、樒の花が青々として散って、花をお供えするさいにその花の枝がからからとなっている様子も、仏道修行に励むことは、現世でも所在ないということはなく、来世のためにもまた頼もしいことであるよ。(宮にとっても)仏道に関することは気にかかることなので、うらやましいとご覧になっている。どうしようもないこの世で、このように(仏道修行に専念して)暮らしたいと、御目を引かれて御覧になっていると、子供達の姿もたくさん見える中に、例の宰相の君の所にいる女の童もいるので、「(宰相の君が通っているのは)ここであろうか」とお思いになるので、お供である兵衛督という人をお呼びになって、「宰相の君はこちらにおりますでしょうか」と、対面するつもりであることを申し上げなさった。(宰相の君は)驚いて、「どういたしましょうか。宮が、こんなところにまで探しにお尋ねになられたのです。恐れ多く思います」といって、急いで出迎えた。仏の居る間の傍らにある南面の部屋に御敷物などを用意して、(その部屋に宮を)お入れする。

 

【第二段落】

 (宮は)ほほ笑みなさって、「この近くに人を探し申し上げていたところ、(宰相の君が)この辺りにいらっしゃるということを聞いて、ここまで入ってきております私の気持ちを、お分かりになってくださいませ」などとおっしゃるので、(宰相は)「本当に仰る通り、恐れ多くもここまでお尋ねになるあなたのお気持ちのほどは、大変恐縮に感じます。年寄りの尼上が、今日明日とも知れぬ病を抱えておりますので、(その最期を)看取りましょうということで、(こちらに)籠っていまして」などと申し上げると、「(尼上が)そのようでいらっしゃるようなことは、御気の毒なことでございます。尼上のご様子もお聞きしようと思いまして、わざわざ参上してきたのに」などとおっしゃるので、(宰相は)中に入って、「(宮から)このような御言葉がございます」と(尼上に)申し上げなさると、「このようなもの(=尼上)がいると(宮が)お聞きになり、年老いた一生の最後に、このような(宮のお見舞いという)すばらしい恩恵を頂くことは、長生きしております命も今は嬉しく、この現世での名誉と思われます。直接にお返事を申し上げるべきですのに、このように病床で衰弱している状態でして」などと、途切れ途切れに申し上げているのも、とても望ましいことだと(宮は)お聞きになっている。

 

【第三段落】

 女房たちが覗いて拝見すると、華やかに出た夕月夜に明るく照らされて、(宮の)お振る舞いは、似ているものがないほどに素晴らしい。山の端より月の光が輝いて出てきたような(宮の)ご様子は、目も追いつかないほどだ。艶も色彩も周囲に零れ落ちそうなばかりのお着物に、直衣の少し重なっている色合いも、どこで糊付けしてぴんとさせたご衣裳なのであろうか、普通の人が染め出したようにも見えず、見慣れた色にも見えない様子だからであろうか、目を見張る程の素晴らしさである。それほど悪くはない男性でさえ見慣れていない女房であるので、(このような宮のように素晴らしい人を見て)「世の中にはこんなにすばらしい人もいらっしゃるのだなあ」と感激し、うっとりし合っている。本当に、(この宮を)姫君に並べたいと思い、笑み合っている。宮は、この場所の様子などをご覧になるにつけても、(都の)他のところとは様子が違うと見える。人気があまりなく、しんみりとしていて、このような所にもの思いがちで住んでいるのであろう心細さなどを、しみじみ同情なさらずにはおれなくて、無性に物悲しく、袖も涙で濡らしなさりつつ、宰相にも、「必ず、甲斐があるように(姫君との仲を)話をつけ申し上げなさってくれ」などと相談をして帰りなさるのを、女房たちも名残多く感じずにはいられない。

 

 

解答

【問1】 ア=③ イ=② ウ=④

【問2】①

【問3】③

【問4】⑤

【問5】②

【問6】⑤

答えのポイントをあっさりと

【問1】傍線解釈  
ア→「思し召し」は尊敬語である。このタイプの問題で、敬語が傍線中にあれば、その訳がきちんと反映されていなければならない。また「ゆかし」も頻出の語である。必ず辞書や単語帳で確認しておこう。
イ→「やをら」は頻出の語。「そっと、静かに」と言った意味。
ウ→まず「重なれる」の部分は、「重なる」(ラ四段動詞の已然形)+完了・存続の助動詞「り」の連体形。「重なっている」のである。「あはひ」の意味を考えるが、後に「染め出したる」とある。「色合い」ではないかと分かる。

【問2】文法(敬意の方向)

敬意の方向は、主語や対象を補うことができなければ、正確に把握することができない。また、敬語は主体把握に役立つ。本文中、地の文で、尊敬語が用いられているのは宮の動作だけであった点は押さえておこう。aの「奉る」は謙譲語。「(宮を)部屋に入れ申し上げる。」という事なので、宮に対する敬意である。bの「給ふ」は尊敬語であるから、主体に対する敬意。選択肢も比較検討することで、宰相が主体であり、宰相への敬意と分かる。cの「侍る」は丁寧語。丁寧語は対者(聞き手)への敬意なので、「宮」に対する敬意となる。ここで選択肢はすでに一つに絞られ、dは「老い人」に対する敬意と考えることになる。念のため確認すると、謙譲語である「聞こえ」の対象として「老い人」を想定して問題ない。尊敬語は主体への敬意、謙譲語は客体への敬意、丁寧語は聞き手への敬意という基礎を今一度確認しておこう。

【問3】心情の理由を問う問題

「宮は何に対してうらやましく思っているか」という指示があるので、この指示に素直に即して考える。傍線の直前部分に「このかたは心にとどまることなれば」とある。「なれば(已然形+ば)」であることに注意。次に「このかた」の指示内容を追っていく。前に「この世にてもつれづれならず、後の世はまたいと頼もしきぞかし」とあり、後には「あぢきなき世に、かくても住ままほしく」とあることから、仏道修行に専念して暮らす生活への羨望を読み取りたい。当時の出家や仏道修行に対する考え方を理解していれば、より容易に答えは絞れる。

【問4】心情説明の問題

「尼上(老い人)はどのような思いから」という指示があるので、この点を意識する。つまり、尼上がこのように述べた理由を考えなければならない。傍線直前までの文意をきちんととれていれば、宮が直接見舞ってくれたことへの恐れ多さからの発言であることが分かる。「つてならで」という表現がつかみにくかったかもしれないが、現代でも「つてがある」「つてがない」などという言い方を耳にしたことがあろう。「伝手」と漢字で書く。つまり、「つてならで」は「人の伝手ではないで=直接」ということになる。病床の乱れた姿での高貴な人との面会が恐縮に感じられる感覚は、『源氏物語』などにもみられる感覚である。

【問5】心情説明の問題

「この時の女房たちの心情」という指示を意識する。実際には、心情そのものというよりは「笑み」の理由を考える問題なのである。直前の「並べまほしく」は、「宮を姫君に並べたい」ということで、ここから結婚を導けたかが分かれ目。

【問6】内容合致
場面(段落)ごとに、誰が誰にどうしたのかをきちんと押さえていく。そのような読みができていれば、本文に書かれていることと違うものは容易に判断できたはずだ。⑤が本文の最終部分と合致していた。

①は垣間見の対象を姫君としているが、先にも述べたが、そうではない。思い込みで読まないように。

②は兵衛督は宮のお供のものである。宮が呼び出して、宰相との取次をさせたのである。

③は尼上の死後について宮に頼んだとは書かれていない。また、宮と尼上は直接顔を合わせてはいないのである。

④は選択肢後半で山里で出家したいとあるのが問題。確かに姫君と結ばれたいことも、仏道へのあこがれも本文にはあるが、出家して山で一緒に暮らしたいとまでは述べられていない。そもそも出家をして仏道に入ってしまえば、姫君と関係を持つことは許されない。
 

 

 

 

本文全文

※【 】で括った単語は意味を知っておきたい単語。助動詞・助詞は重要であっても、チェックだらけになるのでチッェク対象から外しています。

 「ここは【いづく】ぞ」と、御供の人々に問ひ【給へ】ば、「雲林院と【申す】所に【侍る】」と【申す】に、御耳とどまりて、宰相が通ふ所にやと、このほどはここにとこそ聞きしか、【いづく】ならんと、【ゆかしく】【おぼしめし】て、御車をとどめて見出だし【給へ】るに、【いづく】もおなじ卯の花とはいひながら、垣根続きも玉川の心地して、ほととぎすの初音も心尽くさぬあたりにやと、【ゆかしく】【おぼしめさ】れて、夕暮れのほどなれば、【やをら】葦垣の隙より、格子などの【見ゆる】をのぞき【給へ】ば、こなたは仏の御前と見えて、閼伽棚ささやかにて、妻戸・格子なども押しやりて、樒の花青やかに散りて、花【奉る】とて、からからと鳴るほども、このかたのいとなみも、この世にても【つれづれなら】ず、【後の世】はまたいと頼もしきぞかし。このかたは心にとどまるこなれば、うらやましく見【給へ】り。【あぢきなき】世に、かくても住ままほしく、御目とまりて見え給へるに、童べの姿も【あまた】【見ゆる】中に、かの宰相のもとなる童べもあるは、ここにや、と【おぼしめせ】ば、御供なる兵衛督といふを【召し】【給ひ】て、「宰相の君はこれにて【侍る】にや」と、対面すべき【よし】【聞こえ】【給へ】り。驚きて、「【いかが】し【侍る】べき。宮の、これまで尋ね入らせ給へるにこそ。【かたじけなく】【侍り】」とて、いそぎ出でたり。仏のかたはらの南面に、おましなどひきつくろひて、入れ【奉る】。
 うち笑み【給ひ】て、「このほど尋ね【聞こゆれ】ば、このわたりに【ものし】【給ふ】など聞きて、これまで分け入り【侍る】【心ざし】、【おぼし】知れ」など【仰せらるれ】ば、「【げに】、【かたじけなく】尋ね入らせ【給へ】る【御心ざし】こそ、【かたはらいたく】【侍れ】。老い人の、【限り】に【わづらひ】【侍る】【ほど】に、見【果て】【侍ら】んとて、籠もりて」など【申す】に、「さやうに【おはします】らん、【不便に】【侍り】。その御心地も【うけたまはら】んとて、【わざと】【参り】ぬるを」など【仰せらるれ】ば、内へ入りて、「かうかうの【仰せ言】こそ【侍れ】」と【聞こえ】【給へ】ば、「【さる】者ありと御耳に入りて、老いの【果て】に、【かかる】【めでたき】御恵みを【うけたまはる】こそ、【ながらへ】【侍る】命も、今はうれしく、この世の面目と【おぼえ】【侍れ】。つてならでこそ【申す】べく【侍る】に、【かく】弱々しき心地に」など、たえだえ【聞こえ】たるも、いと【あらまほし】と聞き【給へ】り。
 人々、のぞきて見【奉る】に、はなやかにさし出でたる夕月夜に、うちふるまひ【給へ】るけはひ、似るものなく【めでたし】。山の端より月の光のかかやき出でたるやうなる御有様、目もおよばず、【艶】も【色】もこぼるばかりなる御衣に、【直衣】【はかなく】重なれる【あはひ】も、【いづく】に加はれる【きよらに】かあらん、この世の人の染め出だしたるとも【見え】ず、常の色とも【見え】ぬさま、文目も【げに】【めづらかなり】。【わろき】だに見ならはぬ心地なるに、「世には【かかる】人も【おはしまし】けり」と、【めで】【まどひ】あへり。【げに】、姫君に並べまほしく、笑み【ゐ】たり。宮は、所の有様など【御覧ずる】に、ほかにはさまかはりて【見ゆ】。人少なくしめじめとして、ここにも思はしからん人の住みたらん心細さなど、【あはれに】【おぼしめさ】れて、【そぞろに】【ものがなしく】、御袖もうち【しほたれ】【給ひ】つつ、宰相にも、「【かまへて】、【かひ】あるさまに【聞こえなし】【給へ】」など【語らひ】て帰り【給ふ】を、人々も名残多く【おぼゆ】。

 

小夜衣 (中世王朝物語全集)

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小夜衣全釈

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