K

美味しいもの、美容、ファッションときどき古典。

古語探訪1「あいなし」

 受験古文でよく問われる語、また個人的に興味関心のある語についてあれこれ述べるのが「古語探訪」です。タイトルは探訪ですが、そこまで踏み込み過ぎず受験勉強を意識して書いていきますので、少しは古文の「読み」に役立つかもしれません。

 

あいなし(形容詞・ク活用)

徒然草』から次の部分を引いてみます。

①世に語り伝ふること、まことはあいなきにや、多くはみな虚言なり(七三段)

②衆に交はりたるも、あいなく見苦し(一五一段)

 それぞれ、「あいなし」以外の部分の訳を示すと次のようになるでしょうか。

①世間に語り伝えられていることは、真実は(     )のであろうか、多くはみんなつくりごとである。

②(老人が)多くの人と交際しているのも、(     )で見苦しい。

 

 表記は「あいなし」と「あひなし」の両方が存在します。語源や成り立ちにも諸説あって判然とはしない語ですが、「合ひなし」というのが有力な説の一つ。「自分の心とは合わない」ということから、そういった違和感・不快感をさす意味が出てくるのではないでしょうか。また、平安時代末期には「愛なし」という字を当てるようにもなります。違和感や不快感を感じるものに、愛を感じることはありませんよね。そこで、この「あいなし」には以下のような訳語を与えるケースが存在します。

 

あいなし(合ひ無し/愛無し)

①つまらない。面白くない。気にくわない。

②関係がない。無益だ。不似合いだ。

 

 

ここで、先ほどの『徒然草』から引いた例文を今一度確認してみましょう。

①世に語り伝ふること、まことはあいなきにや、多くはみな虚言なり(七三段)

②衆に交はりたるも、あいなく見苦し(一五一段)

①世間に語り伝えられていることは、真実は(つまらない)のであろうか、多くはみんなつくりごとである。

②(老人が)多くの人と交際しているのも、(不釣り合い)で見苦しい。

 

 さて、ここでもう一つ、注意しておきたい意味を確認します。次の例文を見てみましょう。

③人々おどろきて、めでたうおぼゆるに、しのばれで、あいなう起きゐつつ(『源氏物語』須磨)

③人々が(源氏が歌いだしなさったので)目を覚まし、素晴らしいと思われるので、耐えられないで、(     )起き上がり座っては

 

 ここでは連用形の「あいなく」が、ウ音便した形の「あいなう」が用いられています。先ほど見た①・②の意味では、「めでたう」と書いてあることに矛盾をします。実は、このように連用形を副詞的に用いることで、「ただもう、むやみに、わけもなく」などの意をあらわします。注意が必要な用法です。そこで、③は以下のように訳すことができます。

 

③人々が(源氏が歌いだしなさったので)目を覚まし、素晴らしいと思われるので、耐えられないで、(ただもう)起き上がり座っては

 

まとめてみます。

 

あいなし(合ひ無し/愛無し)(形容詞・ク活用)

①世に語り伝ふること、まことはあいなきにや、多くはみな虚言なり(七三段)

②衆に交はりたるも、あいなく見苦し(一五一段)

③人々おどろきて、めでたうおぼゆるに、しのばれで、あいなう起きゐつつ(『源氏物語』須磨)

【主な訳語】

①つまらない。面白くない。気にくわない。

②関係がない。無益だ。不似合いだ。

③ただもう。むやみに。わけもなく。

【例文の訳】

①世間に語り伝えられていることは、真実は(つまらない)のであろうか、多くはみんなつくりごとである。

②(老人が)多くの人と交際しているのも、(不釣り合い)で見苦しい。

③人々が(源氏が歌いだしなさったので)目を覚まし、素晴らしいと思われるので、耐えられないで、(ただもう)起き上がり座っては

 

 

 

徒然草全釈―しっかり古典を読むための

徒然草全釈―しっかり古典を読むための