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古語探訪2「やをら(やはら)」

受験古文でよく問われる語、また個人的に興味関心のある語についてあれこれ述べるのが「古語探訪」です。タイトルは探訪ですが、そこまで踏み込み過ぎず受験勉強を意識して書いていきますので、少しは古文の「読み」に役立つかもしれません。

 

やをら・やはら(副詞)

 『枕草子』「にくきもの」より、以下の一節を見てみましょう。

帽額(もこう)の簾はまして、こはしのうち置かるる音、いとしるし。それも、やをら引き上げて入るは、さらに鳴らず。

  この章段では、清少納言が「にくきもの=しゃくにさわるもの」を色々と列挙しています。上記の部分は、お忍びで男が通ってきたシチュエーションについて語ったものです。帽額の簾というのは、御簾(みす)などをかけるとき上方に布を張るのですが、それを帽額と言います。お忍びで通ってきているのに、御簾の上下の端についている重りの役割をするもの(こはし=木端/小端)が、音を出してしまうのです。それが、清少納言にとってはしゃくにさわるのです。現代でも、私の友人で、旦那さんがドアをばったんばったん開け閉めしたり、カーテンを乱暴にしゃーっと開けるのがしゃく!と語ってくれた人がいました。清少納言の感覚に通じる部分があるのかもしれませんね。

 「やをら引き上げて入るは、さらに鳴らず。」は「それ(=帽額の簾)も、(    )引き上げて入るなら、まったく音はならない」と言っているのです。さて、この「やをら」の意味、分かりましたか?

 

 帽額についてですが、下の絵を見てください。部屋の中に男女がいます。上に巻き上げられた御簾がありますね。その御簾の上のほうに、緑っぽい布が付いていますよね。これが帽額です。

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源氏物語絵巻 二十帖『朝顔』土佐光起

 

 さて、「やをら」の話に戻りましょう。この語は「柔ら」が語源と言われます。「そっと静かに、ゆっくり、おおらかに」行動する様を表します。もともとは「やをら」ですが、鎌倉時代以降では「やはら」という表記も多くみられるようになってきます。

 もう一度、『枕草子』の一節を見てみましょう。

帽額の簾はまして、こはしのうち置かるる音、いとしるし。それも、やをら引き上げて入るは、さらに鳴らず。

「やをら」の部分以外の訳は次のようになります。

 帽額の簾はまして、(持ち上げた)こはしを下に置くおとが、たいそうはっきりとなり響く。(     )引き上げるなら、まったく音はしない。

 

まとめてみます。

 

やをら・やはら(柔ら)(副詞) 

帽額の簾はまして、こはしのうち置かるる音、いとしるし。それも、やをら引き上げて入るは、さらに鳴らず。

【主な訳語】 

①そっと。静かに。ゆったり。目立たないようにゆっくり。

【例文の訳】

帽額の簾はまして、(持ち上げた)こはしを下に置くおとが、たいそうはっきりとなり響く。(そっと静かに)引き上げるなら、まったく音はしない。