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古文解釈入門―その1

 需要があるかわかりませんが、自分の整理半分、古文解釈が苦手な人のため半分で、「古文解釈入門」という記事を書いていこう思っています。必要としてくれる人が多いようであれば、継続していこうかな…くらいに緩い気持ちでおりますが、続けていけたらいいなあと。

 

 次の一文を現代語訳してみましょう。

昔、男ありけり。 ※「けり」は過去の助動詞で「~た、~たそうだ」などと訳す

 

 おそらく、多くの方が「昔、男がいた」というように訳出できたのではないでしょうか。では、なぜこのように訳出することができたのかということを考えてみますと、以下のようなことが行われているのではないかと思います。

 

・昔→今の日本語でも、古語でも昔はきっと昔だから、このままでいいかな。

・男→男も、男のままでいいかな。

・あり→「ある」「いる」など存在をあらわすので、今回は「男」とあったから「い  る」がいいかな

・けり→過去の助動詞だから、「た」だな。

⇒「昔、男いた」 なんだかぎこちないな…「男が」とした方がよさそうだな。

⇒「昔、男がいた」

 

 これは一例であって、考える順番が違ったり、そもそもそんなこと当たり前すぎて、考えなくても自然にそういう訳になるではないかという人もいるかもしれません。ただ、このめんどくさいことを意識的にできないと、ちょっと難しい古文、複雑な古文に出会ったときに手も足も出ないのです。上記の流れについて少し詳しくポイントを示しながら、説明をしてみます。

 

昔、男ありけり

 

 まず、着目して頂きたいのは述語(今回詳しい説明は省きますが「どうする」「どんなだ」にあたる部分ですね)であったり誰かの動作や状態に関わる部分(アンダーラインのところ)になります。「ありけり」というところです。「いた」あるいは「あった」という訳になりそうですね。次に気になるのは、ここの訳が「いた」あるいは「あった」だとすると、これに対応する主語「何が」「誰が」は何なのだろうということです。今回は簡単です。直前に「男」とありますので、どうやらこれが主語だとわかります。主語の場合は、だいたい「~が」とか「~は」という助詞が明示されるのですが、古文ではこれを明示しないことが多いのです。この助詞を示さないというのは、実は現代の日本語の口語でもよくあることです。たとえば、

(今日の朝ごはんの話で)ぼく、パン食べた。

と言った場合、「ぼくは、パンを食べた」ということです。このように、主語であることを示す「が」「は」、それから対象であることを示す「を」は、口語では省いても良いのです。これは、実は古文でもそうで、古文は現代の口語に近いともいえるかもしれません。さて、戻りますと、先ほどの「男ありけり(いた)」の場合には、「男」というように、「が」を示してあげるのがよいとわかりました。これで、「昔、男がいた」という現代語訳が一応出来上がるわけです。

 

 ここまでの話を少しまとめてみます。

  1. まず述部に着目してみる
  2. その述部の主語は何か考えてみる
  3. 「名詞+助詞」が基本だが、助詞が無ければ補う。この時の助詞は「が・は」「を」が基本である。

 先ほどより少しだけ長い古文で確認をしてみましょう。難しい人はヒントの部分を見ながらで構いません。細かい現代語訳というよりは、だいたいお話が分かるか確認をしてみてくださいね。

白河院、西河に行幸の時、詩・歌・管絃の三つの舟を浮べて、その道々の人々を分かちて乗せられけるに、経信卿、遅参のあひだ、ことのほかに御気色悪しかりけるほどに、とばかり待たれて参りたりけるが……(『古今著聞集』)

【ヒント】

白河院…院とは上皇天皇を退位した人)。白河天皇が退位して白河上皇(院)となります。

西河…大井川という川のことをこう呼びました。

行幸「みゆき」)…読み方も注意です。天皇のお出かけを意味します。

詩・歌…漢詩と和歌

管弦…楽器の演奏、音楽

られ…尊敬の助動詞。「~なさる」「お~になる」

ける…過去の助動詞。「~た」

気色…様子・機嫌

とばかり…しばらくの間

れ…尊敬の助動詞。「~なさる」「お~になる」

たり…完了の助動詞。「~た」

 

 さて、述部等に着目をしてみます。

 

白河院、西河に①行幸の時、詩・歌・管絃の三つの舟を➁浮べて、その道々の人々を③分かちて④乗せられけるに、経信卿、⑤遅参のあひだ、ことのほかに⑥御気色悪しかりけるほどに、とばかり⑦待たれて⑧参りたりけるが……(『古今著聞集』)

  番号を振っておきました。この番号の部分に自分で着目できるようになることが大切です。それでは順番に見て行きましょう。

 

①「行幸」です。主語は、見つかりますでしょうか。ちょっとまえに「白河院、」とあり、これが主語だた分かります。そこで、「白河院、」などとしてあげましょう。これで、「白河院が、大井川に出かけた」ときの話か!と分かります。

 

➁~④まで一気に行きます。まず「舟を浮かべた➁」んですね。しかも、三つの舟です。それぞれが、詩(漢詩)、歌(和歌)、管弦(楽器)の舟です。そして、それぞれの道の人を「分けて③」、「乗せた④」のですね。あなたは和歌が得意なので、和歌の舟に、あなたは漢詩の舟に……というように。ここまでの動作、誰が主語だろうかというと、先ほど出てきた白河院しか候補がおりませんので、白河院として考えておきます。いろんな人をそれぞれの舟に乗せるという行為の主体として、問題なさそうです。

 

⑤に行きましょう。「遅参」とあります。誰かが遅れてきてしまったのですね。さて、誰でしょうか。少し戻ると、「経信卿、」とあります。「経信卿、」と考えてあげると、経信くん、遅刻しちゃったのか!と話が見えてきますね。

 

さて、どんどん進みましょう。

 

⑥です。「御気色悪しかりける~」です。ご機嫌が斜めなのですね。現在登場人物は、2人です。白河院と遅刻しちゃった経信くんです。さて、ご機嫌斜めなのは?そうですね、白河院です。

 

⑦に行きます。「待たれて」とありますが、「待つ」のは白河院です。遅刻したのが常信くんなので。わかりますね。

 

さて最後に⑧です。「参りたりける」です。やってきたんですね。これは経信と分かります。

 

 さて、お話を述語や動作・状態に関わる部分中心に、主語を把握してまとめてみると以下のようになります。

 

白河院、大井川に出かけて漢詩・和歌・管弦の三つの舟に、そのそれぞれの道に巧みな人々を分けて乗せていた経信が遅刻してしまった。白河院ご機嫌ななめで待っていたところに、経信がやってきた

 

 いかがでしたでしょうか。お話わかりましたか?より正確な現代語訳は、「古文解釈入門―その2」の時にお示ししようと思いますので、辞書など引きながら、トライしてみてくださいね。

 

 ちなみに、今回三つの舟が出てきましたが、この点について補足しておきます。平安貴族に求められる教養として、「漢籍」「和歌」「管弦」がありました。三つのうち一つでもできれば大したものなのですが、中にはどれもこれも優れたできすぎ君(「ドラえもん」に出てきます)のような人もいたわけです。たとえば今回の「経信」もそんな一人です。三つの道に秀でた才能を持つことを、「三船(三舟)の才」と言いました。特に、「藤原公任」という人物が有名で、『大鏡』の一節は有名箇所で教科書にも掲載されています。